今回は、2092年に上映された「猫の恩返し」にまつわる豆知識をまとめました。
「猫の恩返し」の物語について
「耳をすませば」の主人公が書いたという設定
「耳をすませば」の主人公・月島雫が書いたお話という設定で作られています。このため、「耳をすませば」といろいろな点で接点があります。例えばバロンなどがいい例ですね。
「猫の恩返し」のタイトル秘話
「猫の恩返し」の制作進行中、スタッフの間では、「猫の国のハル」略して「猫ハル」や「バロン」というタイトルで呼ばれていました。最終的に鈴木敏夫プロデューサーが「猫の恩返し」というタイトルを決めたようです。これは原作の中に「猫の恩返し」という言葉を見つけ、監督やスタッフを説得したということです。
当初は企業からの依頼だった
鈴木敏夫プロデューサーによると「猫の恩返し」は、ある企業から「テーマパークのイメージキャラクターを描いてほしい」という依頼があり、そのついでに20分程のフィルムをつくるという話があったのが最初のきっかけだったそうです。
その後、テーマパークの話がなくなりビデオ作品として動き始めましたが、森田監督が9か月を要して作成した絵コンテはビデオ作品の規模を遥かにしのぐ総数525枚になっていたようです。
これに驚いた鈴木プロデューサーは、「映画にしよう」と宮崎監督に話したのだそうです。
宮崎駿監督からのお願い
「猫の恩返し」には、「耳をすませば」といくつか共通点があります。これには、宮崎駿監督が原作者である柊あおいさんに伝えた3つのお願いをしたことによります。
その宮崎駿監督のお願いとは「耳をすませば」に登場した猫の男爵「バロン」、ブタネコの「ムーン」、不思議なお店「地球屋」を登場させてほしいということです。
この依頼を受けて柊さんは、「耳をすませば」の主人公・月島雫が書いた物語というイメージで、本作の原作を書き下ろしたのだそうです。
物語構想について
原作者の柊あおいさんはこの話が来る前に、「猫になっちゃう人間」の物語を考えていたそうです。しかし、その中で「どうして人間に戻らないといけないのか?」「猫のままではいけないのか?」と思うようになり、「人間でいることの幸せってなんだろう」と考えるようになったそうです。それがこの「猫の恩返し」の原作のきっかけになったそうです。
原作では「猫の国」は死んだ猫が住む設定
「猫の国」は原作では、死んでしまったネコが行く場所となっています。
「猫の恩返し」に登場する「ユキちゃん」は小学生だったハルがお気に入りのクッキーをあげたことで飢死せずに済んだと恩を感じていましたが原作ではユキちゃんはハルの飼いネコという設定であり、残念なことにユキちゃんは交通事故で死んでしまいます。
ペットを亡くした話にすると、テーマが重くなりすぎるという判断で、映画版では変更されたようです。
監督は若手を希望していた
本作では企画担当になっていた宮崎駿監督は、この作品では若手の監督を登用したいと考えました。そこで白羽の矢を立てたのが、三鷹の森ジブリ美術館オリジナル短編作品「コロの大さんぽ」の原作原画を担当していた森田宏幸監督でした。
宮崎監督は、森田さんに対し、漫画のラフ原稿を一方的に渡して「男ならやるって言いなさい」と決断を迫ったそうです。
宮崎監督は森田監督を賞賛
「猫の恩返し」の試写が終わった時、宮崎駿監督は誰よりも先に、森田監督に拍手を贈ったのだそうです。
ハルの実在感、アニメーションの映像技術を賞賛したそうです。
また、鈴木プロデューサーはハルに対して、「屈託なく行動し、うかつなところもたくさんあるけれど、何も考えていないわけではない。最後には正しい選択をする」「目の前にあることを一生懸命できる子として、とても共感できる」と語っています。
声優について
主人公役の池脇さんは「耳をすませば」が大好きだった
主人公ハルを演じた池脇千鶴さんは「耳をすませば」が大好きだっただったようです。このため同じ柊さん原作の「猫の恩返し」に出演が決まった時は大感激したようですね。
ルーンは威厳があるようにリクエストされた
猫の国の王子・ルーンを演じた山田孝之さん(当時18歳)は高貴な感じをイメージして臨んだそうですが、監督のリクエストを受け、堂々とした威厳のある印象が出るよう演じたそうです。
ハルのお母さん役
ハルのお母さんを演じたのは岡江久美子さんです。素っ気ない感じで描かれていましたが、自分らしくやるのが一番と思い、ひょうきんなイメージで演じたそうです。
お母さんはキルトを使ったパッチワークを自宅を仕事場にしているので、忙しい時にはリビングが大変なことになります。
ちなみにリビングのクッションや、ハルの布団のカバーなどは、すべてお母さんの手づくりなのだそうです。
大泉洋さんも出演
TEAM NACSの大泉洋さんと安田顕さんが声優として参加しています。
それぞれ古文の先生役が大泉さん、ハルが憧れる町田役が安田さんです。
ムタの声優は犬派だった
ムタの声を演じたのは「もののけ姫」で山犬を演じた渡辺哲さんです。口は悪いけど愛があるムタという役に、ああいうカッコイイ男になりたいと感じて、それまでは犬派だったのに猫もいいなと思わされたそうです。
ムタについて
「耳をすませば」の原作に登場する「ムーン」は黒猫ですが、映画版ではブタネコになっていました。今回、宮崎監督から「ムーン」を出してほしいとオーダーがあり、柊さんは「耳をすませば」の映画版ムーンを「ムタ」として再登場させたようです。
ちなみに、ムタはスタジオジブリを我が物顔で出入りしていた「ウシコ」という半野良猫が作画の参考になっているそうです。
フルネームが明らかに!
「耳をすませば」では様々な名前で呼ばれてきたムーンですが、「猫の恩返し」でフルネームが「ルナルド・ムーン」であると明らかになりました。この名前は「耳をすませば」の原作に出てくる2匹の黒猫「ルナ」と「ムーン」をもじったものです。
「耳をすませば」主人公役の本名さんも出演している
眼鏡をかけた女の子、チカは「耳をすませば」で主人公・月島雫役を務めた本名陽子さんが演じています。
物語の舞台
「猫の恩返し」の舞台に特定のモデルはありませんが、落葉樹並木通りのシーンは、東京都杉並区阿佐ヶ谷の中杉通りや表参道などを参考にしているようです。
これは美術を担当したのは田中直哉さんが「誰の記憶にもありそうな日本の街」を意識してこの映画の舞台をデザインしたそうです。
また、ハルが猫の事務所を探してやってきた十字街の看板には「脚ヤセエステ べるバラ」や「マツモトタカシ」「UNISHIRO」など遊び心があります。吉祥寺のサンロードや横浜の元町などがモデルだそうですが、あくまでそのまま利用しているわけではないそうです。
物語について
スティックが折れてしまう理由
とっさに飛び出し、猫を間一髪助けたハルですが、その際にラクロスのスティックが折れてしまいます。このシーンに関して森田宏幸監督はスティックが折れてしまう理由に悩んだそうです。
原作ではトラックのタイヤに当たって折れますが少し無理があるように思え、ガードレールや電柱等様々なアイディアが出た結果、パーキングメーターに落ち着いたのだそうです。
隠れた主役がいる
美術監督の田中直哉さんによると、このシーンには隠れた主役がおり、それはハルの左側に見える腕が壊れ打ち捨てられた哀れな石膏像なのだそうです。
この石像はラオコーン像といって、美大出身者なら石膏デッサンの授業で苦しんだ経験のあるものなのだとか色々な角度で登場する石膏像が必要になったとき、すかさず田中さんが「ラオコーン像にしましょう」と言ったんだそうです。
猫王について
猫王はオッドアイの瞳が美しいペルシャ猫です。猫の国を治める王様で、剣の使い手です。せっかく明るい猫の国に住んでいるのに、窓を半分閉めて、暗い部屋にこもって人間界から持ってきたビデオをみるのが趣味なのだとか。
猫王の乗物名は猫車
「猫王」が乗っている不思議な一輪車は「猫車」と言います
実はこうした形態の手押しの一輪車は「猫車」あるいは「猫」と呼ばれています。
猫のように狭いところに入れるからという説や、猫のように「ゴロゴロ」と音を立てるからという説、裏返した姿が猫の丸まっている様子に似ているからという説等、名前の由来には諸説があります。
路地裏・塀・屋根はこだわりの1つ
ハルが路地裏、塀や屋根の上まで通ってムタを追いかけるこのシーンは「猫の恩返し」のこだわりシーンの1つのようです。
森田監督は美術監督の田中直哉さんと協力し、路地裏の写真をたくさん撮りハルの動きに合わせて写真の景色を再構成し、あのシーンの空間を生み出したのだそうです。
猫の国
森田監督の猫の国を隅から隅まで明るくしようと考えていたようです。楽しい想像を膨らませるスタッフが揃っていたそうで、結果的に猫の国はお菓子の国のようになったとのことです。
結婚式
美術監督の田中直哉さんによると、ハルが想像した結婚式の様子は、文金高島田に髪を結った、「イヨー、ポンッ、といかにも高校生が想像しそうな絵」にしたようです。金屏風のデザインは、目黒雅叙園の資料を参考にしているそうです。
スカイダイビングで告白予定だったが不採用だった
ハルたちがスカイダイビングするシーンで宮崎駿は「バロン、好きよ!」と言わせるようアドバイスしていましたがスタッフ一同引いてしまい、不採用となっ多様です。