スタジオジブリ「アーヤと魔女」は劇場公開より先にテレビ放送された作品で、そこに新たなカットを追加した形で劇場公開されます。
これはスタジオジブリ史上初めてのことで、さらに3DCGによるアニメーションもスタジオジブリ史上初めてのことです。
このような初の試みをした「アーヤと魔女」ですが、評価はあまりよろしくなく、「アーヤと魔女」をGoogle検索すると「つまらない」、「ひどい」がキーワードに出てきます。
そこで、今回は「アーヤと魔女」のつまらないと思われてしまう箇所を考察して補足説明・見方を紹介してみたいと思います。
目次
「面白くない」と思う理由
「アーヤと魔女」が「つまらない」「面白くない」と評価が低い一番の理由は「物語に見せ場がなく、アーヤが精神的に成長していない」ということではないでしょうか。
・ストーリー
「アーヤと魔女」のストーリーをざっくりというと、幼い頃から孤児院で育ったアーヤがある日、奇妙な家に引き取られ、そこで「意地悪な魔女」と「怒ると怖い謎の男」と暮らすストーリーです。
・登場当初のアーヤの性格
そして、孤児院でのアーヤは以下のような性格を持ちます。
こういった性格から、孤児院でとても快適な生活をキープしようとしていました。
ジブリっぽくない展開
周囲の大人たちを自在に操って快適な生活を維持しようとしていたアーヤですが、ある日意地悪な魔女たちに引き取られて、いくら頑張っても報われず、生まれて初めて自分の思い通りにならない環境に身を置くことになります。
・展開への期待と裏切り
このようなストーリー展開だと、おそらく多くの方は、「アーヤ」が理不尽な環境の中で逞しく成長して立派な女性になる展開を期待するかもしれません。
しかし、魔女の「ベラ・ヤーガ」に立ち向かった後に「アーヤ」は「ベラ・ヤーガ」「マンドレーク」を操って自分の思い通りの快適な生活を手に入れてしまっています。
ここで多くの方はこう思うかもしれません。
・過去作一部紹介
ここでいったん過去のジブリ作品を一部紹介します。
・耳をすばせば
「耳をすませば」は中学生の学園物語ですので、ストーリーの規模はそこまで大きくなく、はっきりとした見せ場が少ないほのぼのした内容となっています。(あると思っている方はすみません。)
しかし、この「耳をすませば」を魅力あるものにしているのは、「恋愛や夢をテーマとしており、中学生特有の葛藤を通して登場人物の成長が垣間見れる」からではないでしょうか。
そして、この登場人物の葛藤と大人になった自分を重ねることで「あの頃」の自分を思い出す事ができます。
・魔女の宅急便
また、魔女の成長という点を見ると「魔女の宅急便」があります。
こちらも物語に見せ場を作って作品を盛り上げるというよりも、「田舎から都会へ修行に来た少女が苦難や葛藤を乗り越え成長していく」ことを主軸としています。
主人公が魔女であるファンタジー性があるにも関わらず、思春期のリアルな少女の感情を描いており、新天地での不安を乗り越えて成長する姿に感情移入してしまうのでしょうね。
過去作との比較
このような過去のジブリ作品と比較すると「アーヤと魔女」はストーリーがほとんど家の中で完結するコンパクトなスケールです。
そして、特に物語の見せ場があるものではないにも関わらず、「アーヤ」の精神的な成長が見られるわけでもありません。
このため、「なんかジブリっぽくない」「アーヤが全然成長しない」と思い、主人公に感情移入できない結果となるのかもしれません。
アーヤの成長を描く作品ではない
アーヤの性格上の設定や過去のジブリ作品を考えると
引き取られた子供が新天地での苦悩・葛藤を通じて自分のわがままな性格を改めて立派に成長する
ことを期待するかもしれませんが、
「アーヤと魔女」で伝えたいことはこういったテーマではなく、大きく2つのテーマがあると思います。
“人を操る”新たなジブリヒロインの強さ
周囲の人を操って自分の思い通りにする事が得意なアーヤに対して宮崎吾朗監督は以下のように語っています。
そしてアーヤは同居することになった魔女のベラ・ヤーガと謎の男・マンドレークを意のままにするためにさまざまな策を講じ始めるストーリーに対して以下のように語っています。
自分が望む生活のためにしたたかさを持って奮闘するアーヤを通じて、今の子供たちへ「アーヤのようにバイタリティーを持って生きていってほしい」というメッセージを送っているわけですね。
・成長するのは周囲の大人
「アーヤと魔女」の魅力の1つは「アーヤ」が新天地で意地悪魔女と怒ると怖い謎の男を倒すといったわかりやすいスカッとするストーリーではなく、実はこの意地悪魔女と謎の男という2人の大人がアーヤと接する内に救われる物語であることです。
子供と接することで成長するのはむしろ大人の方だったということです。
このことに関して宮崎吾朗監督は以下のように語っています。
「アーヤと魔女」を通じて「たまには子供に操られるのもいいんじゃないの?」と大人へメッセージを送っているわけですね。
3DCGが「ジブリらしくない」という批判
アーヤと魔女は、スタジオジブリ初のフル3DCGアニメーション作品です。その為、これまでのジブリヒロインとは雰囲気が異なっています。
2Dのジブリ作品に慣れてしまっている方はアーヤと魔女を見る際にその「ジブリらしさ」がなく素直に面白いと思えなくなってしまうかもしれません。
ここでは、3DCGならではの良さを紹介します。
・アーヤの豊かな顔の表現を生かしている!
主人公アーヤはそのかわいらしい顔の一方で、何かをたくらむ腹黒い一面もあります。
その為、顔の表情が豊かなキャラクターになっています。この豊かな顔を表現するためにCGで工夫しているようです。
CG演出を担当した中村幸憲さんは以下のように語っています。
また「こどもの家」のキッチンのシーンでは「ここは方角的にいうと北側にあるところなので、あまり光は入らないんですけど(「こどもの家」は)アーヤにとってこの時点では理想郷だったので、どこも不快に感じるような場所がないよう心がけて作りましたね」とのことです。
・アーヤの魅力を表現しようとしている
「お話の巧みさや構造の面白さで見せるのではなく、アーヤという女の子のキャラクターの魅力で持たせようと思った」と語っている宮崎吾朗監督ですが、2Dでは表現できない3Dならではの良さがあるようです。
3DCGだからこそ表現できるアーヤたちの姿をぜひみてみてください!
まとめ
「アーヤと魔女」は子供たちと大人たちへ以下のようなメッセージを投げかけているのかもしれません。
こういったメッセージを問いかける作品だと思って見ると、より魅力的で面白く見ることができるかもしれませんね。